太陽のにおい
今日は快晴。ひさびさに拝む太陽だ。
ここのところじめじめとした陰気な日が続き、いい加減気が滅入っていた頃合だったので、この太陽が懐かしくありがたい。
イッスンは岩山に登って(といってもイッスンにとってのこの岩山は、ちょうど人間がうずくまったぐらいの大きさなのだが)、大きく息を吸う。
久々の太陽に、喜ぶ緑の香りがする。成長するときの、花を開かせるときの瑞々しい芳香。
水を吸い上げ、きらきらとした光を一心に浴びる。貪欲なほどに上を目指し、ひたむきに太陽を求めている。
「お日様ってエのは気持ちのいいもんだなイ」
ごろりと転がり、ただ風が吹くのにじっと耳をすませる。ひゅるひゅると、優しく頬をなでる風に、ときおり何かをさらおうとするかのような突風もまじる。
ちょっと転寝をして、気づくとアマ公がいなかった。驚いたが、慌てて動き回るより、しばらく様子を見たほうがよいと結論をだした。
(アイツ、ポアっとしていやがるから、オイラがいないことに気づかないで行っちまったのかもしれねえなア)
こういうことがあるかもしれない、といつも気をつけていたはずなのだが、今朝からの陽気に当てられ、うとうとしていたのが悪かった。もちろん、置いていかれては筆技を盗むという野望も頓挫してしまうからなのだが、それ以上に何か心がとげとげする。
(それとも、オイラのことが邪魔になっておいて行ったのかもなア……)
その推測に行き当たると、なおさら心がいらだつ。今朝から、既に何順したかわからないほどに、ずっとこの問題に取り組んでいた。不毛だ。
きっと忘れているだけ、と考えてのんきに寝転がったり、置いていかれたのでは、と考えては不安になってそこらをうろうろと歩き回ったり。
「うが―――――!!!!!!」
イライラは頂点に達し、それは咆哮という形で発散された。
イッスンの頭が不安で沸騰しそうになった時、ふいに背後に大きな気配が現れた。ずっと太陽に干された稲穂や土のような、不思議とほっとするにおいがふわりとイッスンを包む。
振り向かなくても、何がいるかはわかっている。イッスンがすっぽりと入ってしまう大きな影。その影には、三角形の耳がぴょこんとふたつ、綺麗な相似を描いてついている。
「アマ公!おっそいんだよっ!」
もはや、笑顔で迎えてやるまい、と思っていたのに、イッスンの目と、頬と、口は笑顔のかたちで出迎えていた。
本人は、気づいていないけれども。
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砂吐き警報にご注意。
もう、なにも言うまい(吐血)。
イスアマ企画第一弾SSでした。
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